こんにちは!ライターの社領です。
みなさん。
先日、こちらの超インパクト大な新聞広告が話題になったことをご存知でしょうか?
今朝の日刊スポーツにご注目を!(審査の通らなかった地域もあるようですが、素晴らしいデザインだと思う) pic.twitter.com/4dujbblRxU
— 俵万智 (@tawara_machi) 2019年6月25日

すんごい広告……!
お、お◯んこ!? お◯んこって、あの「お◯んこ」!?
衝撃的すぎるでしょ! 一体、何の広告なの〜!?
じつはこの広告、書籍の広告なんです。
その名も『全国マン・チン分布考』。
みなさんご存知『探偵!ナイトスクープ』を放映当初から手がけるテレビプロデューサー・松本修さんが苦節24年にわたる研究の末に出版した本でして、なんと中身は超・本格的な研究本!
阿川佐和子さんや、歌人の俵万智さんが推薦文を書かれているように、各界の有名人も推薦するほどの本なんだとか……。
何それ!? いやいや、「お◯んこ」がトップに来るって、どんな研究の本なのよ!?
というか、新聞一面を買い取って「お◯んこ」って、一体どういうつもりなの……!? 許されちゃうの〜!?
疑問は尽きません。というわけで、著者の松本修先生に直接聞きに行ってしまうことに!
松本修(まつもと おさむ)
TVプロデューサー。1949年、滋賀県生まれ。京都大学法学部卒業後、朝日放送入社。『ラブアタック!』(75年)、『探偵!ナイトスクープ』(88年)など数々のヒットテレビ番組を企画・演出・制作。大阪芸術大学教授、関西大学・甲南大学・京都精華大学講師を歴任。著書に『全国アホ・バカ分布考』『どんくさいおかんがキレるみたいな。』(以上新潮文庫)、『探偵!ナイトスクープ アホの遺伝子』(ポプラ文庫)ほか
今日はこちらの松本先生に、この前代未聞の新聞広告の真意についてお聞きしたいと思います!
※提供 /「全国マン・チン分布考」松本修
きっかけは1人の女性の「切実な依頼」だった
▲先生のご自宅にてインタビューを行います。贅沢!
「今日はよろしくお願いします!
早速ですが、なんなんですかあの新聞広告……! はっきり言って、下ネタじゃないですか〜!?」
「いやいや! あの広告は下ネタとか、そんな下品なものでは断じてないですよ!」
「えっ、お、『お◯んこ』が……?」
「そうです。では、順を追って説明しましょう。
まず、この本を書くことになったきっかけは、1995年に『探偵!ナイトスクープ』に寄せられた、ある若い女性からの依頼でした。
その方は京都出身なのですが、なんでも、東京でおまんじゅうのことを『おまん』と言ったところ、みんなが大笑いする騒ぎが起きたそうなんです」
▲こ、これはいたたまれない……!
「でも、彼女の地元の京都では、看板にも『生八ツ橋のおまん』と堂々と書いている。『おまん』は、丁寧で美しい言葉なんですよ。
そこで、『また変な目で見られては困るので、全国のどの地域で、女陰(じょいん)はどう呼ばれているのか調べてほしい』ということでして」
「なるほどー! 女陰って、全国でいろいろな呼び方があるって聞いたことがあります。面白そうな依頼ですね!」
「でしょう。けれど、そもそも『おまんこ』等の女陰語自体、テレビで放送することがタブーだったので、依頼を番組で採用することはできませんでした。
なので私は、個人的に『おまんこ』という言葉について研究をはじめました。この本には、その研究の成果が詰まっているんです」
愛と慈しみがこもった「おまんこ」は、こうして下品な言葉とされた!?
「なるほど。しかし、『おまんこが下ネタではない』っていうのはどういうことでしょう?」
「そこが興味深いところで。社領さん、『おまんこ』の語源って知ってますか?」
「『おまんこ』と似ている『おめこ』から想定するに、『女の子』って意味とか……?」
「それは従来の通説でした。しかし私が調査した結果、間違いだとわかったんです。
『おまんこ』はもともと、室町時代の頃に京都で生まれた言葉。女児のまん丸ですべすべとした女陰のことを、愛おしさを込めて『マンジュー』と呼び始めたことがはじまりでした」
「えっ、『マンジュー』って、あの『饅頭』!?」
「そう。当時、お饅頭は最高級品のひとつで、庶民には到底手の届かない憧れの食べ物でした。それに女陰をなぞらえたわけですね。今でいう、『マカロン』みたいな!」
「お、おまんこが、『マカロン』……?」
▲これが、女陰……!?
「そして、『マンジュー』が『マン』となり、上品さと親愛を増す『お』と『こ』がつけられて、『おまんこ』となった。これが『おまんこ』のルーツなわけです」
「全然知らなかったです。なんだか微笑ましいというか、愛を感じるネーミング……!」
「そうでしょう。そのほか、全国各地の女陰語についても、『チャンべ』は当時高級品だった『お茶』から。『メメ』『メコ』は『女らしい』という言葉から。『オソソ』は『清らかで美しいさま』という意味から。
日本に伝わる女陰語は、ほとんどが元をたどると、女性たちが愛情と慈しみを込めてつけた名前だったんですよ!」
「そ、そうだったのかー!」

こちらは、『全国マン・チン分布考』に折り込みされている「女陰全国分布図」。全国にこんなにたくさんある女陰語のほとんどが、愛と慈しみを込めて名付けられていたなんて!
この図は、松本先生が1991年~92年に全国3000以上の市町村に行ったアンケートに基づいて作成されたものですが、不思議なことに「マンジュー」という呼び名が東北と九州の西南部に分布しています。
これは遠い昔、文化の中心であった京の都で呼ばれていた「マンジュー」が、数百年かけて遠く東西に旅したあとを示しているんだとか。言葉の広がり方って面白い……!
ちなみに、女陰語が全国にこれだけの数がある理由としては、女児のために名付けた言葉がやがて大人に『エロい意味で』使われるようになったため、次々に新たな愛らしい言葉が必要になったからなんだとか。お、大人め〜〜〜!
「そんな言葉を下ネタ扱いしちゃったなんて、申し訳なくなってきた……!」
「多くの人はそういう認識だと思います。でも実は、そうやって女陰語が口に出しづらいタブーのように扱われだしたのも、実はごく最近の話なんです」
「最近? ええと、どういうことですか?」
「昔の女性たちはみんな、もっと人目に恥じることなくのびのびと暮らしていたんです。
たとえば江戸時代は、男性に限らず女性もおおらかに春画を楽しんでいたし、お風呂なんかも男女混浴。
昭和のはじめ頃までも、海女さんは上半身裸で海に潜っていました。私が子供の頃だって、祖母と母親が庭に面した部屋で、おっぱいを丸出しにして涼んでいた記憶があります」
「どえー!! 姑と嫁が、乳をさらけだして……!?!」
「はい。そしてもちろん、女性たちは誇らかに女陰を『おまんこ』と呼ぶことだってできました。
だけど、明治維新で春画がハレンチな奇習であるかのように扱われ、大正時代に『レディーファースト』という、まるで女性を子供扱いするかのような西洋の風習が入ってきてしまい……そういった女性を差別する潮流がどんどん高まって、おまんこは”口に出せない はしたない言葉”となってしまったんです」
「し、知らなかったー! そんな流れがあったのか! しかも最近!」
「そうです。昔の日本人女性は、自分の身体に誰にも恥じない誇りをきちんと持っていたんです!」
「いやぁ、なんだか救われました……。
私、ずっと『どうして”おちんちん”に比べて”おまんこ”は呼びにくいんだろう?』『どうして男性は上半身裸でよくて、女性はだめなんだろう?』と疑問を持っていたんです。
でもちゃんと、『おまんこ』は誇らしい言葉だったし、昔は女性が自由に上半身裸になれた歴史があったんですね。それを知ることができただけでも、変なしがらみから抜け出せたような気分です……。」
ここまでサラッと女陰語の歴史が語られていますが、実はこれまで、女陰語も男根語も、言語学者たちに深く調査されたことが一度もありませんでした。まして、「おまんこ」が「饅頭」から来ているなんて説を唱えた言語学者は皆無。
「全国マン・チン分布考」では、このような女陰の歴史だけでなく、男根のルーツも綿密に調べ上げられています。それらは、先生自身が収集したこの数百冊以上の文献をはじめ、全国3000以上の市町村にとったアンケート、各分野の専門家の証言など、松本先生の膨大な量の調査によって今回はじめて解き明かされた事実なのです。
「しかし、よくここまで『おまんこ』を突き詰めて、本まで出版されましたね。一見すると、やっぱり相当風変わりな研究じゃないですか」
「そうですね。私も最初は、『世間にどう見られるだろう』とためらいがありました。
しかし研究を進めるうち、過去の日本人は、女陰・男根に対し品位ある美しい心性をもって命名をし続けた、誇り高い民族だということがわかってきたんです。
しだいに私は、これをはっきり世に示さない限り、死んでも死に切れないと決意するようになって」
「すごい決意! でも確かに、この話は世に示したい……」
「はい。女性の自由のため、言葉の被差別を克服するため、この事実は広く知られなければならない。そのための活動の一環として、冒頭の新聞広告があるわけです」
累計◯千万!? 著者自身が私財を投げ打ちまくった「マン・チン」研究
「では、新聞広告について聞かせてください。あのアイデアはどなたが?」
「あ、私です!」
▲本日撮影に付き添ってくださった、コピーライターの山中さん
「以前、私が『探偵!ナイトスクープ』のポスターを作ったご縁もあって、今回も広告を制作しました」
「これ、見てください。そのナイトスクープのポスターですが、最高なんですよ!」

▲みなさんおなじみ、西田局長が探偵局の窓から顔を覗かせています!
「おお! これは、ナイトスクープの探偵事務所ですか?」
「そうなんです。西田局長は事務所にひとりいて、人々の幸せを祈り、探偵たちの活躍と帰りを待っている……そんなぬくもりを感じさせる、いいポスターでしょう。」
「いやぁ、ありがとうございます。13、4年ほど前、田中や村橋といった当時の優秀な部下たちと制作し松本先生にプレゼンした日を覚えています。先生は『これしかない、哀愁がある!』と即決されましたね」
「そうでしたね。私はこれを見た瞬間、『山中くんは天才だ!』と見抜いたんです! なので今回も山中くんに『本の広告をどうしたらいいかな?』と相談したところ、さっそく彼から……」

「この素晴らしいデザインが送られてきまして」
「何回見てもインパクトがすごいなぁ! 日刊スポーツの大阪・名古屋版に載ったとのことですが、ともすると一見誤解されてしまいそうなビジュアル。よく掲載できましたね」
「はい。思考が柔軟なスポーツ紙ならではかと。
さらに、この広告は『個人広告』。そもそも、企業でなく個人で一面を飾るなんてことも、かなり異例な話なんですよ」
「えー! ではこの広告って、出版社云々ではなく、松本先生個人が出された広告ってことですか?」
「そうなんです。大阪の日刊スポーツさんは、『全国マン・チン分布考』とその広告に対して、大きな社会的意義を見出してくださいまして。慎重に社内の規定に照らし合わせて、掲載の判断をしてくださいました」
「しかし、全国紙だったらきっとNGだったはず。これは、大阪だからできたんだと思います。
大阪人には昔から、納得できないことには『違う』とはっきり言える、独自の柔軟な判断力がある。大阪人の心意気と誇りの表れがこの広告なんだと、私は理解しています」

▲こちらが、2019年6月26日の日刊スポーツ(大阪・名古屋版)朝刊にて掲載された一面広告の実際の写真。ここまでの話を聞くと、感慨深いものがあります…!
「いやぁ、この広告が松本先生の個人広告だったとは……しかも一面って! ゲスい話、掲載料もめちゃくちゃ高そうですが、おいくらほどでした〜!?」
「そうですね。今回の広告の費用は、読んでくださった読者の方へのお礼も込めて、印税から払っているんですが……そこの詳しい値段は置いておいて(笑)。
そもそも、本にかかる費用はほとんど私の自費でやってるんですよ。研究費から広告費まで」
「えええ!」
「まず、自腹で1700冊買って、日本全国すべての市町村に寄付したし」
「せ、1700冊〜!?! 一冊1,180円だから、全部で200万円以上……!?」
「それ以外にも知人に配る様に数百冊は買ってるし……もっと言ったら、研究のために数十人アルバイトを雇ったし、文献を揃えたり、海外にも取材に行って、なんやかんやで……全部で4000万くらいは使いましたね」
「ええ家一軒買えるやん!!!!! ええ家一軒分のお金で、この本は作られている……!」
「まぁしかし、お金の話をするのはセコい!(笑) 僕はそれくらい、ちゃんと世間に知られるべきことだと思って行動しているだけです」
7分間心肺停止…… 三途の川から舞い戻った男の魂の言葉、「全国マン・チン分布考」
「それじゃあこの本、研究期間24年、総費用4000万円ってことですよね……ぶったまげました……!
しかし、松本先生は男性じゃないですか。実際に自分が『おまんこ』に対する差別なんかを受けた経験のない中で、どうしてこの本にここまでの激しい情熱を注ぐことができたんでしょう?」
「実は私、4年前に死にかけてて。私のこの命は、運良く拾ったようなもんなんです」
「し、死にかけ……!? 命を拾ったって、どういうことですか?」
「今回のこの研究って、24年前に依頼があってからすぐに大枠の研究はしていたんですが、仕事が忙しく、長いことなかなか本格的に手をつけることができなかったんです。
で、ようやく5年前にやっと仕事も落ち着いたので、研究に本腰を入れようとしたんですが……そこで、私に咽頭がんが見つかりまして」
「ガン…………!」
「さいわいガンは手術で取り除くことができました。しかし私は術後、患部からの出血が呼吸器官に詰まって窒息し、7分間の心肺停止になったんですよね」
「えーっ!? な、7分!? 漫画の知識で恐縮ですが、心肺停止って、普通は4分かそこらで死ぬんじゃ……!?」
「そうなんですよ。私の親族も、お医者さんから『死を覚悟してくれ』と言われました。
でも、ICUのお医者さんやスタッフが必死に努力してくださった甲斐あって、専門家も不思議がるほどに回復することができまして。
実際私、三途の川も見ましたからね! 向こう岸から女性に呼びかけられましたから!」
「えっ、すごい! 本当ですか! あれですか、『亡くなった大好きなおばあちゃんがいた』とか……!?」
「いや、知らん人です」
「知らん人なの……!? じゃあ、なんて呼びかけられたんですか?」
「いや、わからなかったんですよ、外国人だったので。三つ目のアジア人」
▲不覚にも爆笑してしまいました
「いや、笑ってますけど超絶美女でしたよ! 仏教はアジアから来たから、シルクロードの女性が呼びかけてくれたんちゃうかな……。」
「え、手とか振りましたか?」
「いえ、三つ目はどうも好みじゃないので、そのまま立ち去りました。
ただ、とにかく、僕にとってこの命はもう奇跡的に拾ったようなもんなんですよ。
なので今度は、『この生き延びた喜びを、研究に込めなければならない』と。それが自分の使命だ、と思ったんです。
生き延びた喜びを、ほかの人にも捧げたい。女性は不当に貶められてしまっているけれど、生きる喜びを感じてもらいたい。この本は、僕の魂の言葉なんです。そんなん、これを書いておかないと死ねないですよ!」
「そんなことがあったのか……だから、ここまで熱量のある本になったんですね」
▲全国マン・チン分布考は、女陰・男根に対する研究がなんと365ページに渡って濃密に綴られた超大作。私も読んだのですが、先生の研究に対する粘り強い姿勢に圧倒されます……!
「そうして昨年書籍が刊行となったわけですが、みなさんの反応はいかがですか?」
「いやぁ、出版してよかったですね。発売まではドキドキしていましたが、誰もこの本を馬鹿にはしませんでしたし、むしろ女性たちから、ありがたいことに感謝のお手紙を沢山いただくことができて。意義があることをしたんだな、と思うことができています」
「そりゃあ、感謝の手紙をもらって当然の内容だと思います。しかし、今後『おまんこ』はどうなるんでしょうね。呼びやすい言葉になってくれるんでしょうか」
「今、さまざまな呼び方が生まれてきていますよね。
『デリケートゾーン』もそうだし、男性器をしめすスペイン語『ペニス』の対義語として、『バルバ』と教えている小学校もあるんだとか……」
「バルバ!! なんじゃそりゃ、そんなのあるんですか!? 迷走してるな……!」
「ほかにも、曖昧な『おまた』に直球の『おまんこ』、響きがきれいな『おそそ』。数ある従来の言葉を使うのか、はたまた、新しい言葉が生まれるのか……いずれにせよ、女陰語には輝かしい未来が待っているはずです。
今回の新聞広告についても、このデザインが全国紙に掲載される時こそが、本当に女性が男子と平等に解放される時なのではないでしょうか。私は、そういう日本が来る日を期待しています!」
「先生、今日は面白いお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました!」
・ ・ ・
というわけで、「全国マン・チン分布考」はWEB&全国の書店にて好評発売中!
松本先生が女陰語・男根語という日本語を慈しみ、愛を込めて執筆された濃厚な1冊。
女陰語の成り立ちや、その波乱な歴史に加え、「これまでの常識を覆す『まら』の本当の語源」や、「なぜ方言は分散するのか」など学術的な観点からのお話なんかも、ものすごく丁寧に、かつ面白く楽しく描かれています。
私はこの本で、久しぶりに最初から最後まで書籍を読むことができました……!(胸を張って言うことじゃない……!!)
世の女性たちみんなに読んでほしい! そして、語り合いましょう!
自分たちの子供に、「おちんちん」と同じように、
ぼかさず、逃げない「女陰語」を、胸を張って口にできる未来を願いながら。
社領エミでした!
(写真:おかん @hirayama_okan)